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なぜプログラマーが映画ピロスマニを見てはいけないのか

もう去年の話になるが、岩波ホールで現在グルジアの画家を描いた「放浪の画家 ピロスマニ」が上映されていた。

eiga.com

 

1969年のグルジア(当時はソ連)映画であり、日本では37年ぶり(!)の上映となる。

岩波ホールのような単館映画館好きの私は画家の映画を見たことないということもあり、早速見てきたのであった。

 

これが大きな間違いだった

 

以下全編ネタバレ。また私はピロスマニどころか画家の界隈を一切知らないので

仮に間違い、思い込みがあったり史実との違いを指摘できなくてもご容赦願いたい。

そもそもグルジアってどこだよ。

 

ピロスマニは田舎ではあるがそこそこ大きな家に生まれたようで、都会に出て鉄道会社で働いていた。しかし会社を辞めて友人と田舎でチーズ・バターなどの乳製品を売る商売を始める。

店の前にはピロスマニ自作の牛の絵が飾られ、商品や店の評判も良く、伯爵のコックが買い付けに来たりと順風満帆な出だしを見せる。

 

しかしあるとき姉が夫と共にやってきて「人生は短い。そろそろ落ち着くべき」と縁談を持ちかける。

はい早速スクリーンの向こうからジャブいただきましたー

しかも「田舎の娘が良い。貞淑だから」とうちの地元を見せてやりたくなるようなセリフまで来る。

 

ここで一気に結婚式までシーンが飛ぶ。グルジアの音楽に乗せて綺麗なお嫁さんや親族が踊る。ここだけ見れば幸せな映画だ。しかしこの縁談には裏があり、結婚のどさくさに紛れて姉夫婦がピロスマニの資産を売り叩く

もうこの時点でピロスマニは人間不信レベルマックス、怒りのあまり縁談をぶち壊して結婚式を抜け出す。ピロスマニは店に戻り牛刀を取り出し「あいつの喉を叩き切ってやる!」と激怒。それを諌めた友人に対しても怒鳴りつけ、店を捨てて出て行ってしまう。

 

こうして放浪の画家ピロスマニが誕生する。

 

 

もうこれだけで嫌になった?ご冗談を、これからですよ。

さてピロスマニは画家とはいえ放浪であり、日々の銭や寝床は酒場で絵を描くことで得ていた。しかし才能があったのか、上流階級が集まるようなショー付きのレストランに度々出入りする程度には稼いでいるようだ。酒場でも「風呂にも入れる、部屋も与える。絵は仕事が終わったらいくらでも描いて良い」と、酒場の店員にならないかというオファーまでされる。

しかし自由が良いと断り、放浪を選ぶピロスマニであった。

絵の評判は街の中でも有名であり熱狂的なファンもつく。ピロスマニの絵を買おうとする人がいると「俺たちのピロスマニの絵だぞ!」と暴れ回る店員が出てくるぐらいだ。

ピロスマニに白髪が生え始めた頃、たまたまレストランにある画家が訪れる。ピロスマニの絵を見て一目で惚れ込んだ画家は、早速放浪しているというピロスマニを探すべく町中を歩き回る。ピロスマニの描いた絵を辿りながら、ついに看板を描いているピロスマニと接触することに成功する。

初めて自分の絵をスーツでビシッと決めた世界の人間に褒められたピロスマニ。その喜びは大きく、「世界でも俺は有名なんだ」と酒に酔っているとはいえそんなセリフがポロリと出てきてしまうほど。

ピロスマニは画家として都会に紹介され、一躍有名人となる。

 

しかし放浪を選んできたピロスマニは当然独身、酒場で酒を飲み続けるピロスマニを見かねて、酒場のマスターから精神安定上の理由から結婚を勧められる。「結婚するんだ。奥さんができて子供ができたら気が晴れるさ」「赤ん坊の声は嫌いだ」酒をあおるピロスマニ。しかし酔いを醒ますために外に出たところ、馬車の上で赤ん坊に授乳する母親を見かける。

自分が手に入れられなかった幸せを目撃し、酒場に倒れ込むように駆け込む。「酒だ、酒だ。胸が張り裂けそうだ」と一気飲みを繰り返し、ベッド代わりのテーブルに体を投げる。

あんまりな姿にこっちの胸も張り裂けそうだよ!

 

そしてかつては「殺してやる」とまで憎んだ田舎の姉夫婦のところへ行き、姪や甥たちと食事をする。

「今度は鉄の鋤を持ってきてあげる」

まるで姪や甥にお小遣いを渡して家族ごっこする独身男性みたいだぁ……

 

さらにその帰り道たくさんの子供を連れた女性に出会う。

「君は……」そう、その女性は本当なら自分の嫁となった女性であった。

「君の、子供?」と戸惑うように尋ねるピロスマニ。「はい」

まるで自分が小学生の時に逃したフラグを寝床で思い出して落ち込む独身男性みたいだぁ……

 

 「そうか……立派に育てると良い」

まるで失恋したことに気づきたくなかった独身(略)

 

そして酒を飲むピロスマニ。ひたすら酒を飲むピロスマニ。

まるで田舎に帰って仲の良かった女友達が同窓会に子供を連れてきたのを見た独(略) 

 

だがここからが本番だ

 

家族がなくても絵の才能と名声がある。そう思っていたピロスマニだったが新聞記事で「絵の基本を知らない」と酷評されてしまう。その途端に街の人たちの態度は一転。

 

 ピロスマニの絵はありとあらゆるところから消え去り、人々は目をそらし、かつて熱狂的だったファンも自分を無視するようになった。かつてはここで働かないかと誘ってくれた酒場の親父も自分を無視。

「おい僕だよ!ピロスマニだよ!」

「ピロスマニ?だからなんだってんだ」

 

そしてかつて自分の傑作と言われた馬の絵が無造作に街に捨てられているのを見たピロスマニが悲しそうに呟く。「僕は、いい笑い者にされたのか」

 

仕事もなくなり、人目を避けて誰もいない空き家の階段の下の物置で寝るようになったピロスマニ。加齢と栄養失調で痩せこけている。絵の具ももう買えない。

 

しかしそんなピロスマニにチャンスがやってくる。感謝祭のために絵を描くという依頼が来たのだ。部屋の中に缶詰にされ、画材も何もかも揃っている、足りないものは窓から支給するという完璧な作業環境だ。ピロスマニは決意したかのように用意してあった酒を静かに飲んだ。頑張れピロスマニ!チャンスだピロスマニ!ここで傑作を作って世間を見返してやれ!

 

 

そして感謝祭の日、街中は音楽と踊りと鮮やかな色彩で溢れる。

ピロスマニがかつて通っていたレストランでもレコードや生演奏と一緒に若者や老人がはしゃぎ、酒を飲み、大きな声で笑いあう。

そして酒も料理も無くなり、日が暮れた頃にポツリと誰かが呟く。

「ピロスマニを忘れていた」

 

あんまりだ。

 

作業場のドアを開けると、完成した作品の前に絶望の表情で立っているピロスマニがいた。 

なんと声をかけて良いかわからない人々の側を無言で通り過ぎ、ピロスマニはやがて街のどこかに消えていった。

 

そして感謝祭が過ぎ、本格的に冬になったある日

だれにも見取られずにピロスマニは死んだ。どことも知れない小さな物置で。

 

 

「特殊技能を持っておりそれを頼りに自由を選びしかし技能が認められなくなった途端に社会から迫害を受ける職業」

まるでプログラマーみたいだぁ……書いてるのまじでつらいんですけお!

 

 ちなみにあまりに辛すぎて鑑賞中に心拍数が跳ね上がり、Fitbitが激しいエクササイズをしていると勘違いしていた。

 

というわけでオタクは絶対この映画を見るなよ!絶対だぞ!